シェフの気まぐれクリームソーダ

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そのうちこの世界から色が失われてしまうのではないかと心配

 

始まりは、透明なクリームソーダが発売されたことだった。

 

「仕事中にジュースを飲むのはけしからん」というなんとも阿呆臭い叱責に対抗するためだったか。有名飲料メーカーがクリームソーダ風味の水を売り出したのがきっかけだ。正直なところ、その飲料はクリームソーダとは似ても似つかぬ味だったが、その見た目とフレーバーから世間では大きな話題となった。クリームソーダの後を追うように透明な珈琲、透明な乳飲料、透明な緑茶などが次々と売り出された。緑のお茶と書いて緑茶と読むはずのにペットボトルの中身は透明なのだから、何とも変な話だ。外国人も名ばかりの「GREEN TEA」にさぞかし首を傾げていたことだろう。やがてコンビニの飲料棚はその面積のおよそ半分が透明な飲料で埋め尽くされ、そのスペースは年を追うごとに拡大していった。

有色飲料――いつからか人は、色のついた飲み物をそう呼ぶようになった――は無色飲料に侵食されていったのだ。そう、まるでウイルスのように。

***

『これは万物の始原、つまりアルケーに帰るための崇高な行いである! 我々は水から生まれ、水に回帰する!』

無色飲料原理主義の喧伝が今日も街に響いている。タクトは俺の向かいで机に突っ伏すようにして、窓の外をちらりと窺い見た。カーテンの隙間から、拡声器を抱えた大人たちがビルに向かって叫んでいる姿が見える。外は明るい。しかしカーテンを閉め切ったこのカフェは、暗い。白熱灯風の明かりが数個連なり、ぼんやりと灯っているだけだ。

「あーあ、またやってるよ。本当懲りないねえ」

「この街の有色飲料カフェもここが最後だからな。潰すのに必死なんだろ」

晴れ渡った夏空のように真っ青なクリームソーダを啜る。外野のあまりの喧しさにストローの端を噛む。

「はは、リョウマはきっぱり言うなあ。……ま、オレだってこんな街は願い下げだけど」

西暦2125年、ヘイセイ最後の夏に開発された無色飲料は、まるでウイルスのように販路拡大を続けていた。いや、訂正する。

「あんな風に有色飲料を味わえなくなるのは御免だからねぇ」

実際には、本当にウイルスだったのだ。それも、人の思考回路・身体機能に作用するとても厄介な存在であることがここ30年ほどの研究で判明した。ウイルスの元凶はとある製薬会社。無色飲料ブームを最高潮まで盛り上げ、そして打ち止めに追いやった「透明な牛乳」こそがウイルスの巣窟だった。奴らは人間の身体に巣食い、ありとあらゆる「有色物質」に拒絶反応を示すのだ。製薬会社はそのリスクを把握していたのか、はたまた無自覚であったのか定かではないが、透明な牛乳を口にした者の多くが、いまもその弊害に苦しめられている。いわば一種のバイオテロだった。

「なあ。でも、その被害者の中に妙な噂が流れてるの、知ってるか?」

ふぁぼもらったので書いてみたんですがラスト3行で設定に無理が出てきたのでここで打ち切りです

庶民先生の次回作にご期待下さい!(なお上記の文章はフィクションです!実在の商品・人物・団体とは一切関係ございません!)

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