シェフの気まぐれクリームソーダ

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幸せにケチを付けたいわけじゃない。でも羨ましすぎる。

「人生最後のご馳走」という本を読んだ。

手っ取り早く感想まとめ

・「あなたのことが大切ですよ」を伝えるため、たった一人のために作られる病院食

・いまの病院てすごいんだな…ホテルかよ…私もこんなふうに最期を過ごしてえ羨ましい羨ましい

・ところで食事の話はどこ行った?

あらすじ

淀川キリスト教病院のホスピスの話。この病院では病院食にとても力を入れていて、病院食のメニューが選択式だったり、リクエスト式だったりするらしい。

特にリクエスト制は人気で、「患者さんが食べたいものを食べられるように」料理にも器にも提供の仕方にも、とても配慮されているとのことだった。

家庭で食べる時のように器はせとものを使うとか、ラーメンは熱々を食べてほしいから配膳ギリギリに作るとか、食事の時間が遅れたら温めなおして提供するとか。それだけじゃない。患者さんが「本当に食べたいもの」を追求して料理で再現することを大切にしていた。

例えばカレー1つとっても、母親が作ってくれた家庭的なカレー、インド旅行でゾウを眺めながら右手で食ったカレー、ヴィレッジヴァンガードで購入した激ヤバスライムカレーなど、その姿は様々だ。「マンマの作ってくれたカレーが食べたいよぉ」という人にスライムカレーを提供しても、「本当に食べたいもの」を提供したことにはならない。「どんなカレーが食べたいか」を聞いたあとに「じゃあどうしてそれが食べたいのか」をくまなくリサーチして、思い出の味というか、本人の求める料理を提供するという取り組みを行っているらしい。

なんでそんなことをするのか。ホスピス病棟だからというのがその答えを導いてくれる。本の中ではときたま、「今日は食べられても、明日は食べられるかわからない人々が入院している」と書かれる。限られた時間のなかで、食事は大きな楽しみの一つだろう。私も、食は生活を変えるし、人間を変えると思っている。食事が美味しいときって元気な時だ。反対にストレスが激ヤバMAXのときはだいたい何を食べたっておいしくない。一人で食べる会席料理より、友だちと食べるサイゼのミートドリアのほうが美味しい。会席料理なんて食べたことないけど。

本の中でも、このホスピスに来て心のこもった料理を食べてから、ぐんぐんと食欲が回復し容体も良くなった、という人が描かれていた。

本の中ではホスピスにいる人々が、どうしてそのメニューをリクエストしたのか、その理由が柔らかい語り口で描かれる。けして心地悪い文章ではない、し、取り組みについてもよく取材されていてわかりやすい、が、

(以下は私の感想になる)

読み進めるほどになんというか。変な意味でお腹いっぱいになってしまった。本に描かれた人たちが、あまりにも幸福すぎて眩しい。

この本に収録された人たちの多くは、いままで実に幸福な日々を送ってきたし、送っているようだった。(全部が全部というわけではないけれど)まあ、最初のほうは良かった。思い出の天ぷらとか洋食とか、食にまつわるエピソードでなるほどと頷きながら読んでいた。でも後半から、なんだか話の論点がずれていく。メニューのエピソードなんかそっちのけで、ひたすら若い頃の海外旅行の話や食べ歩きの話などを語る章もある。ドイツに行っただのイタリアに行っただの南米に行っただの、好きなだけ旅行しただのなんだの。夫婦仲が良いとか、ひ孫までいるとか。だんだん自慢に思えてくる。もちろん本人たちはそんな気ないんだろうけど。でも。元気な頃はあんなにいい思いして、今となってもこんな良い思いして超幸せ、みたいな。はぁ。そうすか。よかったっすね。最後の方、読んでてなんだかため息が出た。うらやましくて。最初は「このメニューを頼んだ理由とそのエピソード」だったのに、だんだんプチ自伝みたいになって、料理の話が隅に追いやられてしまった印象を受けた。もちろん、本の趣旨がそういうことじゃないのはわかっている。

「ああ、なんてこの人達は恵まれてるんだろうな」とか「私がこんな風に最期を過ごすことはないだろうな」とか「せめて親だけでも、いざというときになったらこうしてあげたいけれど、今の私の稼ぎでは無理かな」とか、とにかく、自分の経験と比べて悲しくなってしまったのだ。

オチ

最後の最後、「おわりに」で「自分史セラピー」というものが紹介されていた。そこでようやく、これを兼ねていたから、ああいう内容になったのかと納得した。最初からそう説明されたら、もっとストレスなく読めたかなぁ。でもきっと、もう読み返さない。

 

P.s.食事の写真は本当に美味しそうでした。病院食のリクエスト制度もとっても素晴らしいものだと思うし、保険の適用範囲内で受けられるということにはとても驚きました。どんどんこの制度が広がっていけばいいなって思います。これも、本当に。